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03/06/12 【ビート一覧】
松浦一樹【ビート。とはいっても、ジャズのリズムのことでも、ジャック・ケルアックたちビートニック(→事典を見てみて)のことでもありません。アメリカ・ジャーナリズムの本拠地ニューヨークでよく耳にする言葉ですが、ビート・ジャーナリズムのビート(縄張り、担当エリア)です。世の中の実相をとらえようと、記者が街中に繰り出して、ネタを拾い集めてくるジャーナリズムをいい、日本語でいえば、「どさ回りの街ネタ探し」(しっくりこないけど)。野性的なジャーナリズムで、ヨコハマの野生を呼び覚ますには、これが一番いい。ヨコハマの今を伝えるさまざまな事象を、フィーチャー(特集)でお送りします】 【横浜発6月12日】金曜夜の桜木町駅前が、ちょっとにぎやかになってきた。ランドマークタワーがそびえるみなとみらい側の広場に、七時半ごろから、ロック、ラテン、ポップス系のバンドがボツボツと集まり始め、それぞれのコーナーを確保すると、やおら、演奏を開始する。同一会場で、複数のバンドが同時に演奏するから、ビートのうえにビートが重なって、聞きづらいこと、このうえないのだが、とにかく、にぎやかにやっていて、通りすがりの者たちも、それなりにエンジョイしている。 桜木町がストリート・パフォーマーのたまり場になり始めたのは、昨夏。実はあのワールドカップ・サッカーがきっかけで、横浜(ヨコハマではなぜか、横浜駅を呼んで横浜という)の西口ジョイナス周辺で活動していたパフォーマーたちが、県警に“強制排除”され、流れてこざるを得なかったという。 それにしても思う。県警もフーリガン対策に追われ、たいへんだったのだろうが、文化を排除しちゃいけない。暴れまくる不逞(ふてい)の輩は、どんどんしょっ引きゃいいが、外国からはるばる横浜までやってきた観光客たちは、日本の才に触れ、大いに楽しんでいた。「Hey, this city's fantastic! Maybe we'll come again(この街はおもしろいから、もう一度来ようか)」。外国人客がそう思いそうなきっかけを、県警は図らずも、奪っていたのではないか。
さて、金曜夜の桜木町で、ひとり異彩を放っている女性シンガーがいる。フジモト・タカコ(藤本貴子)(27歳)=写真=がその人だ。北海道・標津の出身で、2年前、「ぶっちゃけ、付き合っている人といっしょにいたくて」、川崎に移ってきた。専門学校でボーカルのレッスンを積んだが、ある時、「人の作った曲を歌うのは難しい」ことに気づき、「最初はちょっとしたフレーズしか浮かばなかった」が、自作自演を始めたという。今は、中三の時から独学で覚えたというアコースティック・ギターの弾き語りが自分のスタイルとして定着している。 どこが異彩なのか。歌声だけで聴衆を集めてしまうその力である。広場の真ん中で、彼女が歌い始めると、今までそっぽを向いていた通行人風情がひとり、またひとりと、彼女の周囲に集まり、すぐに二百人くらいの集団に膨れ上がってしまうのである。桜木町で歌うのは、まだ数回というが、固定ファンをすでにつかんでいるらしく、最前列には、親衛隊らしき男女の姿もある。 「なぜ、横浜でやるの」と尋ねると、「反応がいいから」との答えが返ってきた。それからくるっと振り向いて、近くのワシントンホテルを指すと、「イタリア、台湾、オーストラリアと、世界のあちこちから来た人が私の音楽を聴いてくれる。私の音楽が世界に広まるってことでしょ」。気の利いたことをいうではないか。 ♪見上げた空太陽 希望満ちあふれてる 代表曲「風船」の歌詞である。メロディーラインは「いやし系」だが、自分の歌にはあまねく、「前向きに生きて」というメッセージを込める。 「私の声を聞いてください。日本には普通ない声だと思う。発声が違うんです」。夜空に染み渡るようなその声が聴衆を引きつける。 ただ、パンチ力に欠けるのが、難点か。「どの曲も同じように聞こえてしまう」という人もいて、その克服が今後の課題だろう。が、聴衆はすばらしい才に、惜しみない拍手を送るもの。彼女の演奏が終わると、そんな拍手がわき起こる。磨けば、ぴかぴかと光るであろうこの原石を見捨てたら、ヨコハマよ、おまえはもう、ヨコハマじゃない。 幸い、あのハウンドドッグの所属事務所が近々、彼女を見に、横浜にやってくるという。横浜からまたスターがひとり誕生するのか、あるいは、夢がまたひとつ潰(つい)えるのか……。 余談になるが、「喜怒哀楽がすぐに顔に出ちゃう」タカコさんは、デジカメで「人の表情を盗み撮りする」のが最近の趣味。絵を描くのも好きだという。お気に入りのミュージシャンは、80年代に英国で活躍したバンド「Fairground Attraction」のボーカリスト、エディー・リーダー。今月14日に、渋谷で初のライブを予定しているという。 〔横浜発6月20日〕この夜も、彼女はバンドメンバーと、桜木町駅前の野音に繰り出した。向こう側で、音の暴力を振るうハード系のバンドも意に介せず、代表曲の「風船」「永遠の空」のほか5曲を熱唱し、約200人の聴衆に、励ましのメッセージを送り続けた=写真。スカウトマンも約束通り、この場に姿を現し、聴衆に混じっていたようだ。あの「自慢の声」を聞きに。果たして、ドラマは展開するか……〔つづく〕 |
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