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ビート:元町のナゾの艀〔はしけ〕

松浦一樹

 【横浜発11月2日】 ほら、中村川に架かっている元町〔中区〕・西之橋から、見えるでしょう、あの異様な船。ポールの先に、日の丸が巻きついているあの船です、あれ。「何なんだろう…」と気にしながら、いつも、なぞ解きをしないで、通り過ぎていませんか。きょうこそは、すっきりさせましょう。

 2年ほど前に、ひょんなことから、あの艀〔はしけ〕に乗船する機会を得ました。街ネタを探していたら、野毛〔中区〕で飲食店を営む知り合いが、「あれの船長、知ってるよ」ときた。「紹介してよ」と頼むと、数日後、「取材オーケーだってさ。電話してごらんよ」というので、さっそく、艀に電話をしてみると、若い女の声がして、「パパーっ。でんわっ」と、取り次いでくれました。

 「乗船許可」が出て、その翌日だったか、艀を訪ねました。後で聞いたところによると、長さは約25メートルで、吃水〔きっすい〕は約5メートル。でかい船です。大柄で、黒いジャケットを着ていた船長は、甲板で飼っている大きくて、真っ黒なカラスに、水をやっていました。カラスが飼えるのだと、その時初めて、知りました。毛の真っ白な秋田犬も4頭飼われていました。

 船長はこちらに手招きするだけで、ひとことも発しませんでした。恐る恐るタラップを降りると、中の方を指しました。コリャ、ヤラレルカモ…。不安がよぎりました。

 おんぼろ船なので、中もぼろぼろになっているのかと思いきや、なかなか立派な事務所があるではありませんか。日当たりのよい大部屋で、大きな机とソファがありました。

 ソファに腰かけると、「何の取材だ」とストレートに尋ねられたので、愛想よく、「こちらが横浜で最後の水上生活者と聞いたもので…」と説明すると、「なんだ、そんなことか」と急に、にこやかになったのでした。

 実はこの船長、横浜で知る人ぞ知る、右翼団体の最高幹部で、本人によれば、「新聞、雑誌でよく取り上げられる」のだとか。「取材」と聞いて、こちらが、なんらかの事件を追っかけていると思ったのでしょう。そうではないと知って、リラックスしたようでした。

 「もう一隻、あっちの方にいるよ」と石川町〔中区〕の方を指すので、「これ以上の話は無理か」と一瞬思ったのですが、こちらが投げかける質問に、ポツリ、ポツリと、答えてくれました。

 本人によれば、福島県いわき市の出身で、「横浜に住み始めてもう、48年になる」〔それからまた2年が経っているので、もう半世紀になる〕とのことでした。ムショ入りしていた14〔16〕年前、石川町駅に近かった事務所兼自宅から、立ち退きを要求され、河川上に居を構えることにしたとか。今は頭上を走る狩場線の建設のためだったそうです。

 艀は川下から曳いてきたそうですが、橋の下は通れませんから、橋が架かる以前に、現在の場所に置いたことになります。一応、河川法上は、不法係留ということになりますが、この艀には「中区吉浜町●の●●」という、れっきとした住所がある。郵便がちゃんと、毎日届いて、電気も水も流れているというから、驚きです。確か、風呂も便所もあるんだといっていた。住まいの部分は、6畳と12畳の二間があって、キッチンが別にあるのだとか。下層は、団体のメンバーが集まる道場なのですが、「目をつけられるといけないから、若い奴らは、なるべく集めないようにしている」と話していました。

 住み心地を聞いてみると、「空は〔高速道路にふさがれて〕見えないが、暑い夏は風通しがいいし、川はハゼやボラが泳いでいて、くらげが浮かんでくる。快適だよ」と、いっていました。「冬は寒くないんですか」と尋ねると、「暖房があるから」と呆れ顔をされた。  船長ご指摘の通り、川の反対側には、確かに「中区石川町」の表札を掲げている船が係留されていて、船長を「最後の…」とはいえないらしい。そっちの方も、何やら人の気配があって、「●●内燃機」の看板がありました。

 「船に住所があっていいのか」と思って、一応、役所に尋ねてみると、いろいろな答えが返ってきた。区役所の戸籍の担当者に聞いたら、「そこに住んでいるという実態があれば、住民登録はできる」という原則を説明してくれました。これによれば、「住所があっても、おかしくはない」ということになるわけですが、市の河川管理などの担当課に聞くと、「河川での生活は認められない」という。法に「河川を排他的、独占的に使用してはならない」という一項があるそうで、船長に立ち退きを求めているとのことでした。

 ところが、船長さんは「昔は月5000円くらいの費用を納めていた。住んでも、問題はないはず」という。役所に説明を求めると、確かに水上生活者がいた昭和30年代の初期のころまでは、一部の釣り船などに「係留権」を認めていたそうです。

 その後は、フォローしていないので、どちらに軍配が上がったのか、知りません。しかし、あそこにまだ艀があって、日の丸が翻っているところを見ると、船長さんの抵抗は、続いているのでしょう。

 さあ、どうですか。これで、すっきりしましたか。今度、近くを通る時は?マークを浮かべずに、すむでしょう。