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横浜の聴き方

藤枝 好

I’ve got my mojo working

 【横浜発1月4日】 今回取り上げた曲は、横浜を舞台にした花村萬月の小説『ブルース』に出てくる曲である。『横浜ルネサンス』(ダイヤモンド社刊)に寄稿した「横浜の読み方」にも書いたが、横浜を舞台にした本は、桜木町から関内・中華街・元町、麦田のトンネルを抜けて山手、本牧を舞台(題材)にする作品が圧倒的に多い。たとえば、小林信彦の『背中合わせのハートブレイク』(新潮文庫)という小説は、巻頭、神田岩本町に住む高校生の主人公が、「今日は横浜へ行く日だった」と飛び起きて、2頁では、すでに桜木町の駅前に立っている(優れたPOPに共通する要素は、こうした展開の速さだと思う)。

 つまり、横浜の経済的な中心である横浜駅周辺はまったくといってよいほど、取り上げられていない。簡単にいえば歴史の違いだが、商業的な繁栄と文学的なモチーフは一致しないのだろう。『ブルース』もストーリーの大半が関内(なかでも寿町)・石川町近辺で進行する。横浜は<ジャズの街>といわれることが多いが、関内近辺にはブルースのライブを聴かせる店が結構あって、この小説にも、主人公のギタリストが、飛び入りでステージに上がって演奏するくだりがある。このライブ・シークエンスの描写が抜群によい。バンドの演奏を活字で表現したもののなかでは、トップクラスではないかと思う(注)。冒頭、嵐のタンカー上で繰り広げられる暴力シーンも印象的で、イントロのつかみがものすごく強いハードロックという感じがある。

 I’ve got my mojo workingは、シカゴブルースの大立者、マディ・ウォーターズの代表的な曲で、小説の中では、ヒロインであるハーフのブルースシンガーによって、2回唄われる。日本の(歌謡曲)ブルースは、マイナー調のものが一般的だが、本場のブルースはメジャーで元気のよい曲が多い。この曲も跳ねるようなリズムを持ったライブ向きの曲である。

 注:一時、<音楽小説;ロックやジャズをモチーフとした小説>に凝って、河野典生や山川健一などをよく読んだが、この『ブルース』ほど、ピンとくるものがなかった。演奏シーンを活字にしたものでは、ジャズピアニスト・山下洋輔の『さらば碧眼聖歌隊』が忘れられない。雑誌『宝島』で読んだときは、文字どおり精神がスイングした。現在は新潮文庫『ピアニストを笑え!』で読める。(03・12・30)