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にゃんこ

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佐藤雅美 『大君の通貨』
〔文春文庫〕

 私はほとんど文庫しか読まない。そんなわけで、佐藤雅美作品との出会いは『恵比寿屋喜兵衛手控え』だった。直木賞受賞作品という帯がかかっていたと思う。

 佐藤雅美という名前にそれまで見覚えがなかったから、読んで「凄い人が出てきたものだ」と喜んだのを覚えている。ジャンルにすれば時代物、それも捕物帖に括〔くく〕られてしまうような作品なのに、時代考証が行き届いていて、背景にも事件にも説得力がある。しかも、エンターテイメント作品として円熟しているのが驚きだった。

 その佐藤雅美の実質的なデビュー作が、新田次郎文学賞受賞の『大君の通貨』で、全面改稿された文庫版が今年3月に、出て私もようやく読むことができたのだが…。

 主役は、英国の初代駐日外交代表(総領事、後に公使に昇格)ラザフォード・オールコック。準主役が米国の駐日外交代表(公使)タウンゼント・ハリス。対するは、幕府の外国奉行、水野筑後守忠徳。ストーリーとしては、幕末の開港に伴う物価高騰の謎解きなのだが、実際のスケールはもっと大きく、かつ衝撃的である。『大君の通貨』は、倒幕・回天の理由をも説明してしまう書なのだ。

 これは小説である。しかし、佐藤雅美の史実の掘り返しは緻密で、事実もほぼその通りであっただろうと読む者を納得させる。

 優れた本は、読者に新しい視点を提供し、優れた視点は、物事の見え方を変える。時には、以前はどう見えていたかを忘れさせてしまうことさえある。もちろん、そんな本はめったにあるものではないのだが、『大君の通貨』はそういう作品なのである。

 ちなみに、時代は幕末、場所は江戸・神奈川・横浜・長崎・上海と飛ぶが、最も多く登場する舞台が神奈川(宿)と横浜である…の割には、横浜という土地や風物に対する描写があまり多くないのが残念だが、そこまで期待するのは求めすぎというものだろう。

 『大君の通貨』以後の佐藤雅美の執筆活動も、実り多いものだ。あくまで史実に忠実な歴史作品とエンターテイメント作品の両方で、存分に力量を発揮している。エンターテイメントの方が入りやすいという方には、『物書同心居眠り紋蔵』と『揚羽の蝶』をお勧めしたい。

 『大君の通貨』にイギリス軍の駐屯地として少し出てくる港の見える丘公園〔中区〕に建つイギリス館の内部。英国総領事官邸として昭和12年に建てられたものなので、オールコックとは関係ない。2002〔平成14〕年1月から他の洋館と同様、いつでも見学できるようになった。

 頑強な水兵たちが、毎日よろめきながら重い銀貨を抱えて駐屯地と運上所(現在の神奈川県庁)の間を最短距離で往復していた。道が今と同じなら、フランス山〔中区〕脇のこの小径を通るのが最短経路だ。