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松浦一樹

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船戸与一「三都物語」
〔新潮社刊〕

 【横浜発10月20日】三都物語。東京、ソウル、台北の組み合わせではあまりに味気ないから、横浜、光州、台中を舞台に選んだのだろう。光州は韓国の広域市で、日本でいえば、政令市。台中も台湾では規模の大きい都市である。横浜は人口350万人の日本最大市。ほどほどの大きさがあって、プロ球団を擁し、組織犯罪の活発な都市というのが、「三都」の共通点である。横浜は、在日韓国・朝鮮人や台湾系が多いこともある。外国を舞台にしたスケールの大きいスペクタクルを得意とする船戸与一が、東アジアのトライアングルに目をつけたのは、さすがだ。三都の間で、とてつもないストーリーが展開したとしても、不思議はない。

 しかし、格好の舞台が用意され、ストーリーが面白くなったかというと、残念ながら、船戸モノとしては、かなりもの足りないのである。ネタバレになるので、ストーリーの説明は省くが、日本、韓国、台湾のプロ野球関係者が、それぞれ異国の地で暗黒社会に押しつぶされていくさまをニヒルなタッチで描いているのだが、リアリティーに欠けるからか、ついに最後のページまで、はらはらすることなく、読み終えてしまったのである。

 巻末に「後記」がしたためられていて、「台湾取材に関しては●●●氏、●●●氏、韓国取材では●●●氏に格別の配慮を賜った。ここに明記して感謝の意を表す」とあるのだが、どうやら、横浜ではあまり取材していないらしいことも、横浜党の読者としては、がっかりさせられる。

 光州では、歴史的な光州事件、台中では、犯罪組織間の抗争がそれぞれ物語の背景となって、濃密に描かれるのだが、横浜では、台湾系の大物ボスらしき人物が登場するほかは、これといった事件もなく、ストーリーにのめり込めないのである。本郷台、戸部町、黄金町、日ノ出町といった地名や、親不孝通りまで登場するのだが、扱いは安っぽいテレビドラマの域を出ておらず、「地図帳から拾ったのだろう」と皮肉ってみたくなるのである。

 万年ビリっけの横浜ベイスターズらしき球団〔横浜ツインズ〕も出てきて、ジャイアンツらしきチーム〔東京セネターズ〕と競うのだが、知っている選手が登場するわけではないから、臨場感に欠けるのだ。犯罪が絡むから、実名は使えない、という事情はわかるにしてもだ。

 横浜を知らない人が読めば、あるいは、面白いのかも知れないが、野球賭博や、台湾、韓国のプロ野球に特別の興味をお持ちの方以外には、この本は勧められない。せっかく、「三都」の一角に加えていただいたのに、残念というしかない。