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活字スト

松浦一樹

 ※★★★強く薦める、★★☆読んでもいい、★☆☆特に薦めない、☆☆☆焚書=ヨコチャン編集長

北原照久「横浜ゴールドラッシュ」★★☆
〔一季出版刊〕

cover

 【横浜発12月15日】 「ちょっとがんばったら、うまくいっちゃった」式のサクセスストーリーのたぐいは、読んでも、嫉妬心をあおられるか、あまり参考にならないから、普通なら、手を出さない。でも、この本は、横浜が舞台だから、とりあえず、開いてみることにした。

 すると、どうだろう。まあまあ、読めるではないか。自慢たらたら、が多いのは、やはりうっとうしいが、それに耐えさえれば、役に立ちそうなくだりもある。

 読みでみて浮かんだキーワードは「蒐集」「横浜」「起業」。

 蒐集に没頭した経験は、だれにでもあるだろう。少年時代の私は、いつも中途半端で、切手やコインを集めてみたり、メンコを集めてみたり。どちらかというと、切手にのめり込んだのだが、子どもはいつも悲しいかな、カネがないから、すぐに壁にぶち当たる。プラモデルを作るのも好きだったが、小道具や塗料を集める財力に欠けたから、すぐに頓挫してしまった〔大人になってから、にわかにプラモデルに凝り始めたのは、自分のカネを使えるようになったから。子どもがいないなから、自分が子どもになってしまった…〕。

 その点、おもちゃ集め一筋の北原氏はすごいなあ、と思うのだが、実業家の父を持ち、やはり恵まれていたのでしょう。普通はなかなか、こうはいかない。ただ、趣味で終わらせなかったところが、この人のすごいところなのだろう。自分の好きなことにこだわり続けるのも、才能だと思う。

 集めたおもちゃをビジネスに結びつけよう、というこの人の発想が、横浜と出会ったことで開花する。それがこの本のハイライトだ。北原氏は、山手〔中区〕の友人を訪ねたのがきっかけで、「横浜ブリキのおもちゃ博物館」をここに開こうと思い立つのだが、横浜の街からインスピレーションを受けているくだりがなかなかいい:

 〔引用開始〕ゆるやかな傾斜地に広がる外人墓地、その奥に見えるマリンタワー。点在するしゃれたレストラン。その前の通りを、これといった目的も定めず、ただ散歩をしているだけのように見える人々…。どことなく軽井沢の雰囲気に通じるようなときめきを感じた。道行く人々の表情が楽しそうなのだ。

 いいな、この感じ、とぼくは思った。〔引用終わり〕

 横浜の街が、北原氏のマインドに働きかけているのが、よくわかるではないか。横浜はそんな力を持った街なのである。ページをもう少しめくってみると:

 〔引用開始〕横浜を発祥地とするアイテムは数多い。たとえばアイスクリーム、牛乳、氷、クリーニング、公衆トイレ…etc.それらみな、外国から流入し、横浜の地から全国に広がっていった生活文化の一端である。だから、街のなかにも、新しい外国文化を受け入れてきた名残があちこちにあり、それは名残というより今でも現役で頑張っている。〔中略…そして、さらに続く〕歩きながら、もしかしたら「横浜とおもちゃは相性がとても合うのではないか」という考えも湧き起こってきた。ぼくが集めたおもちゃは、明治から一九六〇年代くらいまでのものがほとんどだが、その多くは東京の下町でつくられ、およそ八割が海外への輸出用だった。昔はすべて船便である。とすると、横浜港から出荷されたものもかなり多いはずだ。つまり、外国に渡るためにつくられたおもちゃたちに取って、横浜はもう一つの故郷といってよいのかもしれない。そこに「おもちゃの博物館」というのは、ぴったりではないか。〔引用終わり〕

 横浜が起業にうってつけとは、中田市長も強調していることだが、北原氏の発想は正に「横浜の起業家」のものである。この発想がなければ、横浜で何かを始める意味がないし、どこでやっても同じである。かこつけが大事なのではないかと思う。

 こんなことを考えさせてくれるのだから、まあまあの本なのかな。

 横浜のサクセスストーリーは、もっとあってしかるべきだ。いや、こんなストーリーであふれていてもいい土地柄なのだ。なのに、出くわさないのは、なぜなのだろう。つい、考え込んでしまう。

 北原氏のホームページがどれなのか、よくわからないのですが、TOYS CLUB official siteで、「ブリキのおもちゃ博物館」のことはわかります。